さて、記念すべきコラムの第一回を早速始めましょう。
最初のお題としては、いきなり重めですが、バイクを語る上で絶対に外せない、いわば永遠の課題です。
少々長くなりますので、3回に分けてこの課題に挑んでみましょう。


<バイクは危ない?>

バイクは危ない。

これはバイクに対する一般的な社会的な見方ですし、バイクに乗るのをご家族から反対される最大の理由でもあります。
当たり前ですが、バイクは、2輪という常にバランスを取りながら走らなければいけないという構造をしています。裏を返せばバランスを失えば即、転倒するということ。そして、衝突した場合にはクルマと違い緩衝するものがなく、ヘルメットを除けば直接体を守るものが存在しません。加えて、バイクが本来持つ優れた機動性、加減速性能が、逆に事故発生時には思わぬ速度での衝突となったり、コントロールを失う結果となります。

これらを総合すると、バイクは残念ながら、危険であると言わざるを得ません。

<アクティブセーフティーとパッシブセーフティー>

安全性を踏み込んでお話する前に、必ず押さえておきたいポイントがふたつ。

それがアクティブセーフティーとパッシブセーフティーという二通りの安全性の考え方です。これらが、何かということですが、クルマを例に出すとわかりやすいのでここから始めましょう。

アクティブセーフティーとは難しく言えば事故未然防止技術、事故回避技術ということで、要するにブレーキを掛けてもホイールがロックしないようにするABSとか、アクセルを開けすぎてもタイヤがスリップしないようにするトラクションコントロールとか、どちらかというとドライバーの運転に介入して、事故を起こらないようにしようという技術です。

一方のパッシブセーフティーとは、衝突時被害軽減技術、衝突被害拡大防止技術、ということで、衝突したあとにドライバーが怪我をしないようにするエアバックや、衝突時にクルマが変形して内部への衝撃を和らげる、安全衝突ボディーなどがあります。

クルマの場合は、このように安全性の議論を始めますと、何か起こったときにハードウェア(機構)でどのように人間のミスを補うか、ということとほとんどの場合はイコールです。

さて、このふたつの考え方をもとに、バイクにお話を戻しましょう。

<バイクのアクティブセーフティー>

バイクでのアクティブセーフティーを司る、クルマのような具体的なハードウェアは何か?と言われますと、ほとんどのバイクにはそのようなハードウェアは何一つとしてついていません。あえて言えば、一部のバイクに付いている、ABSや前後連動ブレーキ等がそれにあたりますが、いかんせん一般的ではありません。

脱線しますが、話はついでですので、このバイク用ABSについてしくみを少々ご説明をしましょう。

まず、フロントホイールとリヤホイールにはそれぞれ車輪速センサーというものが付いてます。そしてブレーキングを行なった際に、このフロントとリヤの車輪速が著しく違った場合に、ホイールがロックした、とABSは判断します。こうなりますと、ABSのコントローラーが前後どちらか必要な方のブレーキの油圧を抜きます。すると、油圧を抜かれた方のブレーキは働きませんのでロック状態が解除されます。もちろんこのままでは、単に効かないブレーキですので、油圧を回復させるとブレーキは再度働きます。あとは、この油圧を抜いたり回復させたりの繰り返しを行なう事により、ロックが回避されるというしくみです。実際は、最近のものでは前後連動していたりさらに複雑ですが、概ねこのような感じです。

クルマと同じであれば、もっと一般化しても良いはずのこのABSは何故あまり普及しないのでしょうか?それには、ABS自体のコストが高いことも要因ですが、他にも色々理由があります。

@ABS作動中の振動(キックバック)
ABS作動を知らせるものでもあり、必要であるが、動作中は不自然な感じとなります。クルマのABSでも作動すると、足にかなり振動を感じますよね?クルマではかなり許容できますが、バイクの場合、コントロールし続けなくてはいけないので許容できる範囲が非常に狭いといえます。もちろん技術が進めば、将来的にはかなり改善できるでしょう。

A制動距離が伸びぎみになる
バイクに慣れていないライダーならばABSにより制動距離を縮めることが出来ます。しかし、ある程度慣れたライダーの場合は必ずしも縮むとは限りません。ただし、濡れたり凍結した路面であれば、ほとんどのライダーでその恩恵は受けれるでしょう。

Bリヤホイールロックによる回避が出来ない
正確には、かなり速度が落ちたときはABSが解除され、ホイールがロックされるようになっています。しかしながら、ライディングスクールで行なうリヤホイールロックの危険回避は一般的には出来ません。

一言でいうと、ロック寸前や、ロックした後のギリギリのところ、いわゆる過渡特性の調整がバイクでは難しいのです。

これが、クルマの場合には、ホイールがロックさえしなければある程度は急にハンドルは切ることはできて、事故を回避できる確立は上がりますが、バイクの場合にはバランスを常に保つ必要があり、例えロックしていなくても、ハンドルを急に切って危険回避することはできません。

このように述べていきますと、
ABSに否定的に聞こえてしまいますが、場合によっては、果たしてそうとも言い切れません。例えば。二輪車でも、スクーターではこのABSは絶大な効果を発揮するはずです。スクーターでは、ニーグリップ(両足による車両保持)が出来ず、その上、ホイールが小さく安定性が得られにくいことから、ブレーキングパワーや機敏なハンドリングを得られにくく、かつ比較的初心者の方が乗る確率の高いことがあり、このような場合にはハードウェアによるアシストは非常に効果があります。

さて、ABSのお話はこのくらいにして、第一回を終わりにしましょう。

それでは、第二回は脱線した話を再びバイクでのアクティブセーフティーに戻して、お話を進めてゆきましょう。