二回目はバイクで安全性がどのように向上されてきたかお話してゆきます。それではどうぞ。

<アクティブセーフティーとバイクの進化>

バイクのアクティブセーフティーの確保は非常に難しい・・・それは要するに、出来れば転倒しないようにして、危険から回避させる必要があるからです。クルマの場合はスピンしたり、横転することを防ぐために、直接ホイールをロックさせたり、場合によってはハンドル操作にまで、ハードウェアが介入できます。しかしバイクの場合はブレーキはともかく、ハンドル操作は完全にライダーに委ねられているため、バランスの確保はハードウェアではほぼ不可能です。

想像してみて下さい。ぶつかる直前になって、違う方向にハンドルが勝手に切れるバイクと言うのは、実現が難しいのはわかりますね?

では、これまでに安全性に関してバイクは進化してこなかったのか、ということになりますが、決してそんなことはありません。例えば30年以上も前のバイク(カワサキではマッハとかZ2ですね)と現在のバイクを乗り比べたときに、基本構造は変わっていなくても、乗り比べれば遥かに安全になったと間違いなくいえます。

つまりは、先に述べたように、最終的にバランスの確保はライダーに委ねられているため、ここ数十年のバイクの安全性の進化とは、イコール基本性能の向上と過渡特性の向上ということが出来ると思います。言い換えますと、危険回避に必要な運動性能を向上させたり、何か問題があった時に体感的にわかるようにしておく、ということです。

例えばブレーキの場合では、ドラムブレーキがディスクブレーキになり、そのディスクブレーキがダブルになったりして、制動力やコントロール性が上げられ、さらには雨の日でも十分に効くブレーキとなりました。

ちなみにドラムブレーキとディスクブレーキの制動力の比較では、理屈ではドラムの方が摩擦部分の接触面積が大きいことや、詳しい説明は省きますが、自己倍力作用という力が働いて非常に効くはずなのです。ですが、実際には発熱を排出出来にくい構造であったり、ドラム内部に水が入るとスリップを起こしたり、ブレーキシューがドラムに張り付いたりして、結果として効かなかったり、コントロール性が悪いのです。またコスト的にも機械式のドラムとディスクブレーキはさほど違いがなくなってきていています。ドラムで何らかの技術革新がなければ、全てディスクブレーキになってしまうのも時間の問題かもしれませんね。

またちょっとここで、お話をまた脱線させましょう。

この他、安全を踏まえた基本性能向上という観点で、しばしば登場するのがフロントサスペンションです。現在スクーター等を除けば、ほとんどのバイクにテレスコピック型(望遠鏡型)という、外側のチューブと内側のチューブがスライドして、減衰力を発揮するタイプのものが採用されています。内部の構造は年々進化して、性能向上が図られていますが、この基本的な構造は1935年にBMWが初めて採用してから、それ以来実に70年近くもの歴史があります。

この構造というのは、これだけの年数を経てもほぼ変化がないことをみても、コスト的、スペース的、性能的にバランスが取れた優れた構造です。ですが、安全性を突き詰めてゆくと、この優れた構造でも問題が生じます。近くのバイクを眺めてください。二本のチューブ(フォーク)が車体側で上下二ヶ所で留められ、下端にはホイールが付いています。この状態でブレーキを掛けますと、ブレーキはホイールについていますので、ホイールは後ろ方向に移動しようとします。こうなりますと、二本のフォークがその後方に行こうとする力を食い止め、それをフレームに伝えます。これを全体的に見れば、フレームのステアリングヘッドを支点にしたテコと同じ状態になります。

さて、ここからが問題で、フロントフォークはブレーキと同時にその力を前後方向に受け、その結果、フォーク全体が前後にたわみます。その状態で更にブレーキングを続けてゆきますと、内側のチューブ(インナーチューブ)はスチールで出来ていますが、最終的にはこれが前後方向に働くスプリングになり、前方向に戻されます。そしてまたたわみ始めて、再び戻るという繰り返しとなり、結果としてライダーには前まわりの振動(ピッチング)として伝わります。この振動がフルブレーキング時のコントロール性を落としますし、もちろんタイヤのグリップを最大限に生かすことが出来なくなります。これがこのタイプのフロントフォークが持つ根本的な問題です(この他、操舵系とサスペンション系が混在しているのがいけないとかいろいろな議論があります・・・)。

このような振動が出てはいけないということで、バイクのフロントフォークは近年どんどん太くなってゆきました。ですが太くなるとそれ自身は良いものの今度は留められているフレーム側が負けてしまい、結果としてブレーキング時の振動が生まれます。そのため、そのフォークが太くなるのに合わせてどんどんフレームを強化してゆきました。こうなりますと、際限なくフレームが太く重くなり、フォークも重くなってしまいます。もちろん実際にはそんなことはなく、毎年スーパースポーツは軽くなっていますが、これは新素材の開発や、構造解析技術の向上、製造技術の向上による恩恵が今のところそれを上回っているからです。

ですが、バイクの進化に対して剛性アップで対応してゆくこの構造が限界に来ているようにも見えます。このため、より構造的に剛性の高いスイングアーム(リヤサスペンションと同じ構造)をフロントフォークの代わりしよう、という挑戦が過去に何度もなされました。市販車では、ビモータのテージ1D、ヤマハのGTS1000がありましたが、高い値段や、操舵感が特殊であったりとか、低速域が乗りにくいとか、いろいろな理由でその後のモデルには生かされませんでした。唯一成功した例は、スイングアームとテレスコピックアームを合体させたような、BMWのテレレバーでこれはある意味現在の妥協点かもしれません。この構造とABSを組み合わせて安全性を高めた、というのが今のBMWの売りです。さて、これから国内のバイクはどのような進化を遂げるのでしょうか・・・

さて、フロントフォーク意外で基本性能という意味では、走行性能の向上だけではなく。明るいヘッドライトや切れにくいLEDテールランプ等も事故の未然防止という見方をすれば、これもアクティブセーフティー向上に寄与している、ということが出来ます。

ですがまとめますと、このようなバイク自体の進化はあっても、先ほど述べたように、ハンドル操作にはバイク自身は介入できないことから、結果としてまだバイクでは安全性のほとんどがライダーに委ねられています。

さて、ここでもう一つの安全性、パッシブセーフティーについて見てゆきましょう。

<バイクとパッシブセーフティー>

ここまでは、転倒しない、させない、衝突させない、という安全性の話でした。ここからは起こってしまってからあなたを(又は相手の方を)どのように守るかというお話です。

こちらに関しては、アクティブセーフティー以上に厄介です。

当たり前ですが、バイクとライダーを拘束するものがないことから、転倒した場合には必然的にバイクからライダーは、投げ出されてしまいます。よって、バイク側でエアバッグのような安全装置を備える事が出来ません。もっとも最近では、体がバイクから離れると自動的に膨らむエアバッグのようなジャケットがあったり、欧米では、メーター周りにエアバッグを仕込んでおいて、正面衝突のときに働くようにするシステムを開発しているとか聞いたことがありますが、いずれも、将来の決定打になるものではないでしょう。

細かいところでは、昔のバイクではタンクのエンブレムは金属製で転倒時に、ライダーに切り傷をつくる恐れがありましたが、現在はエンブレムが同じようにあってもプラスチック製になっています。このように細かい配慮をバイクメーカーでも行なってきていますが、これが劇的に安全性を向上させるということではもちろんありません。

しかし、あえてこの難しい二輪車でのパッシブセーフティーに挑んだ例があります。

それがBMWC1というスクーター(排気量125cc200ccの二種類)です。どういうスクーターかといいますと、ライダーの周りをアルミ製の枠で囲った上で、ライダーをバイクにシートベルトで固定します。しかも(乗る国の法律によりますが)ヘルメットが要らない、というおまけ付きです。簡単に説明しますと、やたらに丈夫なH社のジャイロキャノピー(宅配用の屋根付きスクーター)と考えてもらったらよいかと思います。なお、このスクーターで転倒しますともちろんシートベルトでライダーが固定されていますので、バイクと一緒に転倒することになり、ライダーはヘルメットではなくて、ライダーを囲んでいるアルミ製の枠により守られることになります。この考え方は画期的で、ことに衝突時には非常な効果を発揮すると思います。ですが、この方法は通常のバイクや、大型スクーターには展開するのは非常に困難です。まず、これらの二輪車では、ライダーを完全に囲う枠を付けることは出来ませんし、付けたところで、重心が高くなって不安定になってしまいます。またシートベルトでシートに固定されてしまいますと、ライダーがアクションを取りにくくなり、コーナリングすることが非常に困難になります。

つまり衝突時には絶大なる効果を発揮しても、一方の安全性、アクティブセーフティーが相当に影響を受けてしまいます。あくまでも安全性とは一方だけで考えてはいけないということです。

このようにバイクでは、パッシブセーフティーの確保も非常に難しいといえます。

<バイクでの安全性向上>

ここまでの、結論は、バイク自身(ハードウェア)でアクティブセーフティーもパッシブセーフティーも確保するのが難しいということでした。どちらかを劇的に良くしようとすると、もう一方が落ちては本末転倒で、バイクとは微妙なバランスで成り立つ乗り物です。

では、安全性向上はどうするか、ということですが、これはバイクではなく、かなりの部分はライダー側に委ねられています。つまり、バイクとライダーのセット状態のパッケージで考えたときの安全性を考えなくてはいけない、ということです。

例えば、クルマの場合、よっぽど危険な運転や、ドライバーの致命的なミスがなく、かつシートベルトが締められていれば、クルマごとの安全性というのはあまり大きな差は生じませんが、バイクの場合では、一台一台、安全性に大きな差が生じてしまいます。

つまり、ライダーであるあなた自身が安全性向上に努めなくてはいけないということです。

さて、二回目はここで終わりにしましょう。

三回目はアクティブ、パッシブ両面からあなたが出来る安全性向上を考えてみることにしましょう。