バイクの安全性のお話、三回シリーズの最終回となりました。

ここまでは、バイク自身の安全性向上は、クルマと比較したら非常に難しいことや、安全性はバイクとライダーのパッケージで考えなくてはいけないこと、等々をお話してきました。

その上で、ライダー自身の意識向上がなくては、結局のところ安全性は大幅に向上できないということで、今回はライダーとして何が出来るのか考えていきたいと思います。

さて、今回も、アクティブ、パッシブのふたつの考え方をベースにお話を展開します。

まずは、アクティブセーフティー向上でライダーとして出来ることを3つ挙げて説明しましょう。

<アクティブ その@:自らの技量にあったバイクを選ぶこと>

バイクは格好の良い乗り物です。ある意味、その格好を追求するために乗るといっても過言ではないでしょう。

でも技量を超えてしまったバイクに乗ると、あなた自身危険ですし、あなた以外にも危険を及ぼします。特に初心者が1台目のバイクを選ぶときは気をつける必要があります。

ライダーの技量を超えてしまうようなバイクということですが、単純に述べるならば、それはパワー、重量、足つき、乗車姿勢の少なくともどれか一つが突出しているバイクということです。

例えば、スーパースポーツ車ですが、正直なところ少し慣れれば初心者でも相当に速く走れます。

しかし、ライダーの技量を超えた速度で何か思わぬ事態が発生すると対処できなくなり、速度が出ているだけに大事故になってしまいます。これは、初心者はいわゆる、タイヤの滑り出しや、フルブレーキング等の、過渡特性を把握していないのが主な原因です。スーパースポーツ車は、バイク自身はものすごいアクティブセーフティーの性能を有していますが、

ライダー自身とのパッケージで考えると決して安全ではない、ということになります。

では、パワーもそこそこで足つきの良い、アメリカンタイプではどうでしょう?

こちらは、意外と楽そうなポジションに見えますが、操作性があまり良いとはいえません。特にハンドルを切ったときに完全に手足が伸びきってしまい、それ以上コントロールをすることが出来なくなります。一度お近くの販売店で、バイクに跨ってハンドルを全部切ってみて下さい。もちろん慣れた方ならば、やや前傾姿勢をとってこのような場合は対処できるでしょう。また、アメリカンタイプでは重量が重いことや、ニーグリップをし難い構造であったりして、同じく過渡状態でコントロールするのが難しいといえます。

このため、比較的慣れた方が乗るタイプのバイクだと思います。

このようなことを考えれば、中排気量のいわゆるネイキッドスタイルのバイクは、あらゆる意味でバランスがとれていると言って良いのではないかと思います。教習所で使われているのでもわかるとおり、技量を上げるのであれば、まず無難な選択だと思います。

でも、技量を超えた状態とはそれだけではありません。よく聞くお話としては、「初心者だから、転倒する可能性があってすぐにバイクが傷つくかもしれない。だから安い中古車からはじめよう。」、というものがあります。クルマならばあまり問題はありませんが、バイクの場合、ここに落とし穴があります。

事故とは、予期せぬことが起こったときに対処できないため起こるものです。中古車で程度の悪いものですと、走行中不具合が起こるものがありますし、前ユーザーの癖がついているものがあります。

この癖とは何かということですが、例えば前ユーザーがラフにギヤ操作をしていた結果、ギヤ抜けが頻繁に起こる場合があります。最初からそのバイクに乗っていた前ユーザーならば、あらかじめ抜けることを想定してバイクに乗っていますが、初心者にとっては何が起こったのか、どうしたらよいのかもわかりません。

この場合、このバイクで対処するためには相応の技量が必要になります。このため、初心者の方には特に新車、ないしは程度の良い中古車を選んで欲しいと思います。

<アクティブ そのA:自分のバイクで講習会等に参加して、技術向上を図ること>

もうお分かりのとおり、クルマにおけるABSやトラクションコントロール等はライダー自身が行なわなくてはいけません。具体的に、技術面では、教習所でも練習した8の字走行が無難にこなせること、そしてリヤタイヤを意識的にロック出来るようになることです。精神面としては、このような練習の中で自分の技量を相対的に理解できることと、平常心でバイクをコントロールできるようになることです。これらを身に付けるためには、一般公道では危険性が多いため、講習会やライディングスクールに参加する必要があります。

技術的な面で、まず8の字走行ですが、これはバイクコントロールを学ぶのに実に多くの要素を含んでいます。これは今後連載するコラムの中でもお話してゆきますが、安全面でひとつ重要なことは視線の送り方が身につくということです。とかく、危険な状態になると、その危険なものを凝視してしまいますが、バイクは、それとは裏腹に視線の方向に進む傾向がありますので、その結果衝突してしまいます。リヤタイヤのロックですが、これはいわゆるライディングテクニック本で良く紹介されている通り、危険回避の基本的なテクニックです。また、前後のブレーキの役割と効果を知ることにより、制動距離を短縮する技術も身に付きます。

精神的な面ですが、自分の技量が分かると無理をしなくなります。まずは事故を起こす可能性を減らすこと、このためには技量を超えたライディングをしないことです。そして平常心。通常は避けられるものが、極度の緊張により呼吸が止まってしまうと体が硬直し回避が出来なくなります。

バイクは、それ自体では危険であるとも安全であるとも言えません。あくまでも乗る人の技量と精神力で安全性が大幅に変わります。

<アクティブ そのB:バイクは正しく整備された状態で乗ること>

あなたは、安全に走行しているつもりでも、ヘッドライトやウィンカー、テールランプが切れていたら、決して安全ではありません。バイクはただでも、クルマに比べて大きさが小さいので遅く見えてしまいますし、相手からの発見が遅れることが良くあります。また、特にブレーキや、タイヤは常に整備された状態で乗る必要があります。これらは急に減ったり、悪くなったりしないので、放置されがちですが、極限状態に達したときに、限界がものすごく低くなり、思わぬバイクの挙動により大事故につながったりします。
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次は、パッシブセーフティーでライダーができることです。ここでは4つ挙げましょう。

<パッシブ その@:きちんとしたヘルメットをかぶろう>

いうまでもなく、基本的にバイクに乗っているときに、あなたの命を守るのはヘルメットです。とにかく、頭が守られれば最悪の事態になる確率はかなり減ります。まずは安心できるメーカーのものを選ぶ事、そしてオワン型ヘルメットは論外として、最低限ジェット型ヘルメット、出来ればフルフェイスを選びましょう。とにかくヘルメットに対してはケチらない、例外はありません。

良いヘルメットを選ぶということは、あなた自身が痛い思いをしないためであるのはもちろんのこと、相手のある事故ではその相手のためでもあります。あなたに責任はなくとも、ヘルメットのために大事故になってしまった場合、相手の方の負担が必要以上に大きくなり、必要以上の迷惑をかけます。そして、それが巡り巡ると、保険料の引き上げや、交通規制強化になってしまい、他の方に非常な影響を及ぼします。たかがヘルメットですが、その選び方だけでも、このように社会的に大きな責任があります。

<パッシブ そのA:ヘルメットは正しくかぶろう>

どんなに良いヘルメットでも、サイズが合ってなかったり、あごひもを締めなかったりしたら、全く意味がありません。

クルマでも、エアバッグが何個付いていても、シートベルトを締めなければ全く効果が無いのと一緒です。特にあごひもは、ふとしたことに忘れがちです。習慣として、走り始める前に必ず顎に手を当てるくらいのことはするべきではないでしょうか。

<パッシブ そのB:最低限長袖、長ズボンを着用。できれば肩肘パッドや膝パッドを着用しよう>

長袖、長ズボンはバイクに乗るのに最低限必要な事です。それはどんなに近い移動でも例外はありません。安全か、そうでないかは一回に走行する距離ではなく、ライディングする回数で決まると思います。また、夏にTシャツでバイクに乗るひとを良く見かけますが、あれは涼しいのですが、長時間扇風機の前にいるようなものですので、必要以上に汗が蒸発し、長距離を走ると、極度に体力を奪います。その結果、集中力が無くなり、事故につながります。

加えて、ジャケットは派手目なものか、リフレクターが付いているものを選んだほうが良いと思います。走行中相手にあなたの存在を気づいてもらう、これはアクティブセーフティーの一部です。一瞬でも早く見つけてもらえれば、事故になる確率を下げたり、大事故を防ぐことになります。また、肩肘パッドや膝パッドの装着は、一度でも転倒してケガをしたことのあるひとならばその意味はわかると思います。特に初心者の方は、少々格好が悪いかもしれないし、暑いかもしれませんが、痛い経験をする前に、ぜひ装着しましょう。

<パッシブ そのC:ライディング用にはできれば紐のない靴を選ぼう>

事故とは、前述しましたが、予期せぬことが起こったときに対処できないため起こるものです。靴はそのような意味で意外な盲点となる部分です。特に紐のある靴を履いているときに、その紐が、シフトペダルやブレーキペダルに引っかかってしまって、操作できなくなったり、パニックに陥ったりすることがあります。一番良いのは、紐がないライディング用のブーツを履くことです。ですが、短距離の移動などではブーツを履かないこともあり、このような場合は最低限できることとして靴紐は靴の中にしまいましょう。

このようなちょっとした心がけから事故が防げるのです。

<バイクの安全性について、最後に>

さて長くなったお話をまとめましょう。

すでにお話しましたが、そのバイクが安全かどうかは、バイク自体で決まるものではありません。
これは、ハサミが目の前にあって、これが安全かどうか議論することに似ています。

ハサミは危ない。

例えば、このハサミにものすごく切れる刃が付いていた場合、使い勝手は良いですが、手を切る危険性が高くなります。逆に全然切れない刃が付いていたら、使い勝手が悪い上に、こちらも手を切る危険性が高くなります。また持ち方を反対にすれば切れません。何とかと何とかは使いよう、ということです。

バイクも使い方を知らなければ手を切りますし、使い方を教えるひとが必要です。その意味では、バイクの販売店は非常に重要な役割を果たすべきで、あなたの技量に好みあったバイクをアドバイスし、きちんと整備して、かつ安全に乗る方法もお教えすることが出来る必要があります。

つまり販売店はバイクの安全性の一部です。バイク販売店を選ぶのは、バイクを選ぶのと同じくらい重要であるということです。

そして何よりあなた自身の意識の向上が安全性向上にもっとも有効です。これは他のひとや、バイクまかせではなく、あなた自身がバイクのハードウェアの一部であり、全体のパッケージとして安全性の一部であるということの認識が必要ということ。バイクと安全。いわば、永遠の課題ですが、将来あなたが乗りつづけるためにも、決して避けることのできない問題です。

次回は、「バイクの馬力と速さを考える」という内容でお送りします。